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「金がすべてじゃないからな。」
「医者の言葉とは思えないですねえ。」
「懐に溜め込んだ昔の金さえ切り崩せば問題ないさ。」
「悪いことして荒稼ぎした金ですかい?」
主人はまだ知らぬ俺の過去を咎めるというよりはむしろ、日中ずっと横になって過ごしていことに不服らしい。
片方だけ吊り上げた口角から、わざと挑発させるような言葉で会話を繋ぎ退屈しのぎをしようとしているのが分かる。
八つ当たりに近い主人の言葉に、確かに犠牲の元に手にした金は穢れたものでしかないと思わされる。
まあな、と自嘲気味なことを考えながら返すと、主人は張り合いを感じなかったのか物足りなそうな顔をして体を起こす。
「主人、安静に。」
「タバコですわ。これがないと落ち着かない。」
医者の警告を早速無視した主人は、にやりと顔を歪めて口に加えた煙草に火をつける。
部屋中に煙草特有の匂いが充満するとお互い自然に口を閉ざす。
そろそろ自宅に帰ろうかと思い荷物をまとめ始めると主人が思い出したように口を開く。
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