神格願望不在論

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「その願いは聞き届け――」  突然のドラムロール。是非もなく聞かされる側の身になって頂きたい。 「られませんでしたァ!」 「勿体ぶってんじゃねーぞオラァ!」  そしてこの扱いである。目の前のそれが『神様』に類するものじゃなかったら俺は多分殴っていた。そうでなくとも、境内から思わせぶりに顔を出した時なんぞは浮浪者の類かと思って反射的にシャープペンを投擲したぐらいである。この動揺ぐらいは理解しろと言いたいが、目の前のそれにとっては至極どうでもいいらしかった。 「仕方ないじゃないですかー、信心ひとつない私みたいなモンが他人様のお願いを聞き届けるなんて出来ないんですよー、それより何よりー?」 「半疑問形じゃねえか何よりなんだよ」 「この国、もう神様とか居ませんから」  それこそ耳を疑う話だ。お前誰だって話なのだ。  寧ろ、わからないことばかりなのでひとつ整理したい心持ちである。  先ず立地。  寂れた神社。規模としては鳥居と本殿があるだけマシ。地元からもほぼ寄り付く人がいなくなり、あろうことか心霊スポットの扱いすら受けて久しい。貴船神社か地主神社へ行けというのだ、そんなもの。  だが、時折本殿周囲に人影があるとかないとか、そういう話は以前からあった。信心深い人間が足を向けたのかはたまた……まあ後者か。  周囲一体を囲む林は間伐や枝打ちすらされない、よく言えば「自然のまま」、悪く言えば「育つに任せた乱雑な」植生ということになる。  ところどころ雑草に侵食された石畳は既に用をなさず、足首ほどに延びたヒメジョオンが花をつけているところなどはどこの道端だと言いたくもなる。  僅かに漂う匂いはドクダミだろう。……本当に、ロクな場所ではない。
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