神格願望不在論

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 次に、俺がここに来た動機について。  特に深い理由は無い……などというと嘘になるか。ほんの数日前に降って湧いたように我が身に起きた不幸を憂え、怖いもの見たさと僅かな信心との両天秤の挙句にここまで来てしまったというべきだろう。  ただ、その不幸を払拭するだけの理由付けが欲しかっただけなのだ。お願いというには余りに稚拙だし誰かに頼むものでもない。願いというよりは確認作業に近いそれは、成就を確認するのに最も面倒なものの一つといえるだろう。  最後に、目の前に唐突に現れた『それ』について。  まず、着ているものは当然のように襤褸である。一見すればあからさまに浮浪者然としているが、それにしては肌身に不潔さが一切見られないのが逆に不気味である。  丸みをおびた肩や腰元をみるに女性なのだろうが、伸びるに任せた髪の合間からみえる眼光は決して女性らしい奥ゆかしさではなく、挑戦的なそれである故に少年的なものを覚えもする。  これは単に自分の対人鑑識能力が低いせいだろうが、性別がはっきりしないのだ。コミュ障とか言うんじゃない。  彼女(便宜的にそうする)曰く、この神社の神である……らしい。俺は『神様』と認識したが、そう言えば彼女は自分に『様』なんて付けなかった。そして今しがたの発言であるわけだが……はて。 「はいそこ、余計なこと考えない!」 「人の心読んでんじゃねーぞコラァ!」  何はともあれ油断も隙もない。すこしぼーっとしただけで全てを見据えていますよと言わんばかりに突っついてくる彼女をどうあしらうか、だけで既に十数分は費やしていた。
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