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「君は人の死に際に立ち会ったことはあるか?」
先手を打ったのは彼の方だった。
「君は不幸と向き合ったことはあるか? どうしようもない不運に翻弄されたことはあるか?」
彼の声には覇気が感じられた。少なくとも、これから自殺しようとする人のそれではなかった。死に際でやけくそになっているという訳でもないようだった。
「不幸には耐性があると思うんだ。初めて対峙する不幸には誰だって、弱い。対して、多くの不幸を知れば、不幸を不幸と感じなくなることだってあるだろう」
私は安心していた。彼の言っていることは頭に入ってこないが、この饒舌な少年が今から飛び降りるとは、到底考えられそうにない。
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