第1話

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     【1】    屋上の鍵が壊れていることを聞いたのは今朝で、それから私は一時間目の授業に出席しないことを即決し、階段を駆け上がった。左手で少し前の手すりを握りしめ、体に引き付けるように力を込める。生じた勢いで階段を三段ずつ飛び越える。 屋上に通じる扉の前についたときは肩で息をしていた。呼吸を整えつつ、精神も落ち着かせる。目に掛かる髪をかき上げて、深呼吸をする。 ドアノブを汗ばむ右手で握り、少し力を込めると、ぎしぎし音を立てて開いた。開けた視界に私は人影を求める。 「いない」 思わず口をついた言葉に驚き、唾を少し飲み込む。 喜べばいいのか分からない。 悲しめばいいのか分からない 私はあいつに、いて欲しいと思っていたのだろうか。 判然としない思いが重しとなって、そこから動けなくなってしまった。 屋上の真っ平らなコンクリートは私に何も教えてくれそうにない――
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