卑怯で卑屈な非凡人

第1話

　
噂通りに事が運ぶのであれば、少年は屋上から飛び降りる――

がしかし、地面に触れると同時に姿を消してしまう。
音もなく、まるで最初からそんな人影はなかったかのように、いなくなる。

でももし、噂通りの事象が私に降りかかっているのではなく、ただ単に自殺志願者に遭遇しただけだとしたらどうだ？

あの少年がそのまま飛び降りて、命を落とす瞬間を私はここでただ見ていることになるのではないか？

最悪の事態になったとき、私は私を責めずにいられるのか？

私が今とるべき行動はなんだ。

考えがまとまるより先に、脚が地面を蹴りだしていた。

そもそも屋上へは天文研究部の部員しか入れないはずで、その点から言っても今私が見た少年は噂通りの幻影である可能性が高い。

でもその可能性は高いだけで0ではない。最悪の事態が起きた後では、私が私でなくなってしまう。