恋愛中毒 --ユイ--

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「今後、相澤がこちらに伺うことになりますので、よろしくお願いします。」 担当交代の挨拶も終わって、 二人は出口に向かい歩き始めた。 何事もなく、この場を去っていく アイツの背中が見えて、 ホッと息を吐き出す。 と同時にチクリと胸を刺す痛み。 どれだけ身を切る思いで、 私があの日、アイツの部屋を飛び出したのか アイツは知らないはず。 いつの間にか握りしめていた拳。 手のひらに爪の跡がくっきりついてた。 その扉を一歩出れば、 姿が見えなくなるという場所まで行ってから 「先輩すみません。ちょっとだけ……」 アイツが前の担当者に一声かけているのが見えた。 そして、ゆっくりと、だけどまっすぐに、 私の方を向いた。 ドクン。 落ち着きかけていた心拍数がまた跳ね上がる。 アイツから目を反らしたいのに、 しっかりと見つめられて 吸い込まれるように反らせない。 「結衣……」 私の瞳を睨むような鋭い目で じーっと見つめながら手招きをした。 今さら名前を呼び捨てになんかしないで。 釈然としないまま、私は一歩前に出た。 無視しちゃえばいいのに。 自分の行動を理性は止めているのに、 本能が、何かを期待してる。 周りはそれぞれの仕事に戻り始めていたけれども、話が漏れないように、 人のいない小会議室の扉を開け、 中に通した。
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