恋愛中毒 --ユイ--

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バタンと扉の閉まる音と共に 外界から遮断されて二人の空間。 イスに腰をかけることもなく、 狭い部屋の端と端で、立ったまま向き合った。 「久しぶりだな。結衣」 そういって、私に向けるのは、 アイツの最上級の笑顔。 こんな笑顔に、もう騙されない。 強くそう思っていたのだけど、 私の口から出た言葉は震えてた。 「……就職、したんだ?」 私と一緒にいたとき、アイツは無職だった。 お金を稼いでくることなんてほとんどなかった。 「結衣に出て行かれて、目が覚めた。 感謝してるよ」 アイツはアイドル顔負けの爽やかさで、微笑む。 絶対に、騙されない。 「よかったね……。で、なにか用?」 精一杯、冷たい声で言ったのに、 アイツはフっと笑って、 閉まっていて見えないはずのドアの向こうに視線を飛ばす。 「結衣さぁ。 今、あの偉そうな人と付き合ってんの? ここに入るとき、すげー睨まれたけど……」 ハッっと息を飲んだ。 ……なんでわかっちゃうんだろう。 課長席に座る今の彼氏からは、 この会議室の入り口は丸見えだったはずだ。 二人きりのこの空間に不信感を覚えないはずはない。 中の様子が気になりながらも、 この扉を開けることもなく、 ヤキモキしているに違いない彼。
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