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世の中そんなには上手くいかないもので、結果は引き分け。
誰もが幸せになるというそういった結末だ。
だけど理不尽なのはその後、綾と会長にプールに投げられたり叩きつけられたり酷い扱いを受け続けた。
ベスト尽くして新人歓迎会という歓迎される側の俺がこの仕打ちを受ける意味が理解できない。
一樹さんは一樹さんでいつのまにか姿を消していたし、状況こそ男は俺一人で誰もが羨むような空間のはずなのに、プールの水を飲みすぎたせいか、気持ち悪い。
「良い歓迎会になって我もとてもよかった」
「鼻水垂らして泣いてた画像は消してください」
「それも一興だろう、ふふ」
車内には俺と会長以外には運転手を除きいない。
綾と鞍馬さんより俺の家が遠いからこうなるのは必然だ。
「あれ、こっちって俺の家の方向とは逆………」
次の言葉を紡ごうにも、それを遮るかのように会長の左手から出てきたナイフが俺の首元にあてがわれている。
窓から入ってくる月明かりが会長を照らすたびに表情が垣間見えた。
変化がないその表情はとてもじゃないが言い表せない程の冷たいもの。
ナイフに力が入ると首元が熱く、焼けたような痛みが走るが、声すら出せない。
思考はとても冷静だが恐怖の質が違うのか、指一本動かせない。
疲れているから俺は幻覚を見ているのか。
そんな現実逃避もすぐに終わる。
「霞沙羅……知っているか?」
「………俺が覚えていないだけで、相手はきっと知ってる」
嘘なんてついたら、死ぬ……そんな雰囲気が確かにあった。
彼女のことは正直まだ全然理解してないし、わかってないけど彼女にとって俺を殺すことなんてきっと造作もないことだということだけは理解できた。
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