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ウィスティアの中央都市ライラの郊外に、一件だけ、ポツリと家が建っていた。
白い木の壁に、緑の屋根の家だ。そこに住んでいるのは、大人が二人に子どもが一人。
ここから都市部に行くには三時間はかかる。
滅多に車が通らない場所なので見たことのある者は殆ど居ないが、陽のある時間には、十一~二歳位の少年が外で本を読む姿を見かける事ができる。今日の午後も、少年は外で分厚い本を読んでいた。
周りに建つ家も無く、少しばかり不便な生活だが、少年はそれを嫌だとは思わない。都市部から離れているおかげで夜は星が綺麗だし、他に通る車も無いから心おきなくはしゃぎまわれる。
生まれついてからずっとこの場所で育ってきた少年は、それ以上のものを必要としなかった。
そんなものがなくても幸せで満ち足りていた。
きっと、自分はずっとこの場所で生きていくんだと、少年はそう思っていた。
だから、目の前の光景を、彼はどうしても信じる事ができなかった。
「・・・と・・さ、ん・・・」
呟きが小さくなって消える。
少年は、父の部屋の机に背を預けて座り込んでいた。
汚い部屋だった。床を大量の本が占領してテレビを飲み込み、ごみ箱から溢れ出ている白い紙が本の上や下にたくさん散らばっている。
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