序章・郊外

4/6
前へ
/82ページ
次へ
机の上も、パソコンと、金属の破片以外は同様だ。  それだけでも充分な汚さだが、そんな部屋を、更に汚すものがあった。  それは、少年を抱きしめる男の死体の背中から吹き出した大量の血と、その傷の原因であるナイフから滴る血。  窓から差し込む月の光が、そんな床の様子をよく照らしていた。 「くそかったりぃ」  そう言いながら、男は足下に放り出されていた、兎のぬいぐるみを左手で拾い上げた。耳と顔の片側が血に染まってしまっている。  男はそのぬいぐるみを乱暴に揺すり、何かを確認するようにじっと見つめ、また揺すり、という行動を数回行った。そして、唐突に怒鳴った。 「ぅおいこの兎!! ちったあ反応しやがれ! なんだぁ!? 血に濡れてフリーズしちまったかあ?! こっちは急いでんだよ!! さっさと起きやがれ!!」  その時、少年の脳裏には、あのぬいぐるみを助けなければという考えが浮かんでいた。あのぬいぐるみは、少年にとってとても大切な家族であり、唯一の友達だ。  しかし、少年の体は、恐怖に震えるだけだった。 「バニ・・」  小さな声で言って、少年は慌てて口を塞いだ。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加