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石畳の歩道の両脇に、近代的なビルや古風な家々が建ち並んでいる。
その中心にはアスファルトが車道を作り、何台もの車が走り抜けていく。
ウィスティアの首都ライラ。魔法使いを名乗った少年が住む、この大陸では最も交通事故が少なく、尚且つ治安もそれなりに良い豊かな町だ。
そんな町のスプラウト通りの車道に、白黒のパトカーが頭を路地の入り口に向けて何台も留まっていた。
青年はその先頭に立ちながら、溜め息をついた。
黒い髪を後ろで縛って、黒い縁の眼鏡をかけた黒いコートをきた青年だった。
「アーデルさん」
そんな青年に声がかかる。アーデルと呼ばれた彼はゆっくりと背後を振り返った。
そこには、幼い少女と、その両親がいた。
少女の両親は心配そうな顔でアーデルを見つめていた。
「あ、あのぅ」
「・・なんでしょうか」
「こ、この子の大事な人形は帰ってきますか?」
「・・心配いりませんよ。仕事はちゃんとする奴ですので。・・それに、あれでも『魔導士』の『資格』を持つ人間ですから」
それを聞くと、母親はそれなら、と呟いて頷いた。だが、少女の表情は全く晴れない。
薄暗い路地を、猫のぬいぐるみを持った茶髪の男が駆けている。
見た目は三十代半ばといったところだろうか。
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