第一章・魔法使い

2/25
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
 石畳の歩道の両脇に、近代的なビルや古風な家々が建ち並んでいる。  その中心にはアスファルトが車道を作り、何台もの車が走り抜けていく。  ウィスティアの首都ライラ。魔法使いを名乗った少年が住む、この大陸では最も交通事故が少なく、尚且つ治安もそれなりに良い豊かな町だ。  そんな町のスプラウト通りの車道に、白黒のパトカーが頭を路地の入り口に向けて何台も留まっていた。  青年はその先頭に立ちながら、溜め息をついた。  黒い髪を後ろで縛って、黒い縁の眼鏡をかけた黒いコートをきた青年だった。 「アーデルさん」  そんな青年に声がかかる。アーデルと呼ばれた彼はゆっくりと背後を振り返った。  そこには、幼い少女と、その両親がいた。  少女の両親は心配そうな顔でアーデルを見つめていた。 「あ、あのぅ」 「・・なんでしょうか」 「こ、この子の大事な人形は帰ってきますか?」 「・・心配いりませんよ。仕事はちゃんとする奴ですので。・・それに、あれでも『魔導士』の『資格』を持つ人間ですから」  それを聞くと、母親はそれなら、と呟いて頷いた。だが、少女の表情は全く晴れない。 薄暗い路地を、猫のぬいぐるみを持った茶髪の男が駆けている。  見た目は三十代半ばといったところだろうか。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!