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もしも、敵への手加減をしていなければ――それならばリリィが命を落とすことはなかったのかもしれない。
盗賊の命とリリィの命。もちろん大切なのは後者だ。いや、本当にそうなのか――。
たしかに、クロードにとってはそうだ。ルプール村の住人にとってもそうに違いない。
しかし、どちらとも尊い命であることに変わりはない。人の命の価値に差などあるのだろうか――。
何度も何度も、クロードはそのスパイラルに巻き込まれてきた。
正しい答えなど、ありえないのようにすら思えた。
事実、答えをクロードは出せなかったし、それを教えてくれる人間もいなかった。
ただ、リリィな祖父にあたるルプール村の長バレックだけは、クロードを心底から励ましてくれたのだった。
それからしばらく、クロードは療養をすることになる。
任務により心身に傷を負った者に与えられる、公的な休暇だった。
そして事件から約一ヶ月後、クロードは実践に復帰した。生きるためには、どんなに辛くとも、働かないという選択肢はないのだ。
そうして、今日というこの日までの日々を過ごしてきた。
いまだ、戦闘に対して何かを掴んだという、はっきりとした手応えは、クロードにはない。
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