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ゼファーは、予定していた経路からずれ、コース中心を陣取るかたちとなった。
と、同時に、後方右からスリップ音が聞こえてきた。敵の車体が、ゼファーの車体によって、予期せぬ動きを強いられたのだ。
しかも、コースの中心を奪ったことで、さらに見通しはよくなった。
次の右カーブまでを最短距離で攻められるのだ。
リーサは今一度、集中力を高めた。あとは逃げ切るのみだった。
予定通りにカーブを越えたが、後ろが激しく気になってしまう。
今日初めて、リーサは追われる側の立場に変わった。
追撃する場合とは違う、別の緊張感がリーサを襲ってくる。高揚するふうではなくて、心臓を握られるような苦しい感覚だ。呼吸の小さな乱れもあった。
ともかく、このレース四回目の“悪魔の曲線”を無事乗り切るのが現状のベストだ。
リーサは、ドリフト走行になるのを最小限にとどめ、かつコースの中心を占拠できるような走法を取ることに決めた。
一周前のつばぜり合いを体験しているだけに、インコースを空けるのにはためらいがあったからだ。
激しいスリップ音に見舞われながらも、ゼファーは見事にそれに応えてくれた。
タイヤが摩擦した時の熱が、車体を通じてリーサにまで伝わってきたような気がした。
車内には、蒸し風呂のような熱気がこもっている。
リーサの頬を、こめかみから一筋の汗が伝った。
そんなことに、いまさらながら気づかされた。
残すはファイナルラップのみだ。
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