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始まりの長い直線は、差をつけるのには最適だ。
リーサは調子よくアクセルを踏み込んだ。と、ともに爆音が響く。
その音が、かすかにだが、いつもとは違っていた。スピードも思うように上がってこない。
勝利が見えたことで、無意識のうちに守りに入ろうとしているのだと、リーサは自己分析した。
気持ちの乱れは技術の乱れだ。
そうやって魂を振るわせようとするが、弱気という敵は強力だった。
代わりに震えたのは右足だ。それからハンドルを持つ両手は、痺れたように感覚が薄くなっている。身体全体が宙に浮いているかのようだ。
背後の赤い宿敵は、ドライブテクニックを武器に、カーブで差を詰めにかかってきた。
バックミラー越しの、重いプレッシャーをリーサは感じた。
まるで、リーサとゼファーを追い詰めるかのように聞こえてくるエンジン音に、身震いをも覚えた。
しかしそれでも、抜き去られることも、並ばれることもなかった。
そのうちに、直線が見えてきた。ここで、できる限りのアドバンテージを稼いでおく必要がある。
しかし、やはりどうも、加速の具合がよろしくない感じがした。
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