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その瞬間、いい知れぬ違和感をリーサは覚えた。
それと同時だった。ゼファーの車体は、コースの外側へ向かって大きくスリップを始めた。
まずい――。
ハンドル操作で体勢を立て直そうとする。しかし、滑りは止まらない。
やがて、がくんと車体が小さく揺れた。左の後輪が、コース外の芝生地帯に落ちたようだ。
ただ、リーサがそれに気を取られていたのは、一秒にも満たない時間だけでしなかった。
赤い車体が、リーサの眼前を横切って行ったのだ。
駆け抜けるその瞬間だけは、映像がまるでスローモーションのようになった。
リーサは、無我夢中でアクセルを踏み込んでいた。
ゼファーがやたらにでかい爆音を上げた時、さらに白い車体がゼファーの真横を通過して行った。
残るはこの直線しかない。
だめ、だめだ――。
リーサの頭の中が、白いもやに包まれていった。
心臓の動機が耳にまで届いた。
単調で不吉な重低音だった。
リーサの前方で、赤い車体がゴールを通過したのが見えた。
さらに、白い車体もだ。
それからすぐあとに、ゼファーが続いた。
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