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ゴールをしたという実感は得られなかった。
あと一歩のところで、するりと逃げていった勝利の亡霊を、リーサは追いかけ続けていた。
ほぼ無意識の中で、リーサはコースを半周ほど走行していた。
その間にスピードは落ちていて、ゼファーは路肩へ停止した。
リーサの脳裏には、最後のヘアピンでのスリップの映像が、何度も何度もリピートされていた。
油断があったのだ。そして、高揚から冷静さを欠いていた。
だから、リーサ自身が気づかないくらい、微妙に感覚を狂わせていたのだ。
すべては一瞬の出来事である。
しかし、勝負の世界では、その一瞬が勝者と敗者を分断するのだろう。
なぜ、あのとき、もっと注意を払わなかったのだろう――。
否応なしに後悔の念が生まれてしまう。
しかし注意をしていたとしても、必ずしも良い結果を生んだとは限らないのだ。
それでも、もしも、という空想が次々と沸き上がってくる――。
リーサの心は沈んだ。
約十年も前、リーサはウィンザー魔法学校から、リベッドの元へと移った。
その決断をしたのはリーサ自身だ。
それが、後悔の歴史の始まりだった。
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