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「えっ、ゼファーをわたしに?」
それを聴いた時、リーサは何がなんだかわからないような気持ちになった。
「そうだよ。やっぱり、コイツはコイツをちゃんと操れるやつに乗ってもらいたいからな。ゼファーもそのほうが喜ぶよ」
フランは真顔でそういうのだ。
しかしリーサとしては、やはり瞬時に、これを彼の真意と捉えることはできなかった。
ゼファーが喜ぶ――その思想は理解できるのだが、本当にそれが本音なのかと、うたぐりたくなるのだ。
そもそも、リーサが大会に出たのも、フランと協力して魔力の研究をしたのも、このゼファーを世界に広めるためだった。
なのに、フランはゼファーをリーサに譲ると申し出たのだ。
大会の日からは、すでに二日が経過していた。
表彰台に乗った経験は、リーサにとっても気分の良いものだったが、それはもう行ってしまった過去なのだ。
フランからの、この提案があったのは、そろそろ次の目標を決めないと、と思っていた矢先のことだった。
「フランの夢は?ゼファーを世界に広めて、また作れるようにするんじゃないの?」
「広める目的なら、もう十分に達成できたさ」
フランは自信ありげだ。
「あのレースでな」
「本当に?……でも、わたしは優勝できなかったし」
あの表彰式で、赤いマシンのドライバーが歓声を浴びていたのを、リーサは真横で聴いていた。
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