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リーサはふと車の外を見た。
フェルムランドの埠頭は、街灯のおかげで、夜でも一定の明るさを保っていた。
世界を食べ尽くすような暗がりに、橙色のライトの光がぼんやりと広がっている。
ふたりは今、フェルムランドからファビュール本土へと渡る客船の最終便を待っているのだった。
その最終便が出港するまでは、あと三十分といったところだ。
同時にそれは、ふたりのしばしの別れの時間でもある。
「そろそろ行こうかな」
いつかはいい出さないといけない台詞だった。でないと、どうにも名残惜しさが払拭できなさそうだったからだ。
「まあ、もうちょっとだけ、ゆっくりしようぜ。別に……ほら、急いでなんてないんだろ」
急に、フランは真面目な口調に変わった。緊張している時のような、リーサの胸のうちを探るような声音だった。
「うん……そうだね」
たっぷり時間を空けてから、リーサはそう答えた。
名残惜しいのは、フランのほうも一緒のようだった。ふと、その意味を考えてみる。
彼はなぜ、自分との別れを惜しんでくれるのだろう。
そこにはどんな感情があるのだろう。
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