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無論、リーサが彼の気持ちについて、何ひとつわかっていないなどということはなかった。
いつかふたりで食事をした、あの時のフランの行動にも、彼の思念の小さな一端を垣間見たのだった。
そして、それを断ったのはリーサのほうだ。
そのせいで、彼は自分の感情にブレーキをかけているのかもしれなかった。
ならば、次はリーサのほうから、というのが筋のような気もする。
要するに、ふたりの感情に、ある程度の結論はすでに出ているといえた。
しかし、その内容をはっきりと口にする勇気が、リーサにはなかった。
後ろ向きな思考からは脱しても、この特別な恐怖心だけは、簡単に払拭することはできないのだ。
もしも、勘違いだったら――。
フランにとってわたしなんてなんでもない存在だったら――そんな不安がよぎる。
「なあ、リーサ。俺と出会ってよかったと思ってるか」
唐突に、呟くようにフランがいって、リーサは彼のほうを見た。
彼は窓の外側へ顔を向けていた。その奥には、黒く光る海辺が見える。
「思ってるよ。なんでそんなこと訊くの?」
たっぷりと三秒くらい、沈黙の時間が発生した。
そしてフランがこちらを向いた。
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