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「ううん、いや、別に……いいんだ……」
彼はそのまま目を伏せた。
リーサも、彼のほうから目を外そうとした。
「いや」
いきなり出た大きな声を聞き、リーサの身体はぴくりと反応した。
「よくない」
「え?」
リーサが彼のほうを向くのとほぼ同時に、フランの左の掌がリーサの右肩を掴んだ。
ふたりは、互いに見つめ合うようなかたちになった。
そして、彼の決意のこもった瞳をしっかりと見た。
咄嗟に、恥ずかしさからリーサは目を逸らしたかったが、直感的にそれを躊躇した。
今ここで逃げてしまえば、もう永遠に、彼との距離は近づかないような気がしたからだ。
「リーサ、俺……」
フランの右腕が、リーサの身体の左側から背中に回った。
そのまま、彼に引き寄せられる。
座席と座席の間にある、ギアのチェンジがふたりの邪魔をしたが、そんなことはまったく気にならなかった。
リーサの身体は、まったく動かなくなっていた。
彼の胸板に、同じくリーサの胸がぶつかった。
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