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その状態のまま、ずいぶんと長い時間が過ぎたような気がした。
気づけば、くちびるから感触は消えていて、彼の温もりも幾分遠ざかっていた。
ただ、両腕はリーサの身体を包んだままだった。
リーサが目を開けたとき、すぐ触れるほどの先に彼の顔があった。
気恥ずかしくなって、必然的に目を伏せた。
「リーサ」
くすぐったくなるような甘い声で呼ばれた。
「今日は、さすがにもう、いいだろ?」
その言葉の意味を、リーサの頭はすぐに察知した。
さらにフランの腕が、いくらか力を増したような気がした。緊張感が一気に増した。
「あっ、でも……それは……」
リーサは何とも言葉では表しがたい、熱く高揚した気持ちになった。
すると彼のほうも、なぜかあたふたし始めた。
ぱっと、腕を解いてリーサを解放した。
「あ、ち、違うよ。今日の出発のことだよ」
まるで、時間が止まったかのような空間が車内に広がった。
「そうだね……明日でも……いいのかな」
この、宙に浮いたような今の気持ちのままで、毅然とさよならをいえるほど、大人ではなかったようだ。
リーサは初めて、その自分を知った。
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