298人が本棚に入れています
本棚に追加
そしてその間は、もちろんドラクロスに帰るようなことはなかった。
アイリスやエレノアたち、そしてレリアとも、一年以上顔を合わせていないということになる。
懐かしさと、少しばかりの寂しさを、怜人は感じた。
するといつものように、病室で横たわったまま動かない、最後に見たレリアの姿が脳裏をよぎっていった。
本当に、ただすやすやと眠っているだけのような綺麗な顔――。
あのときと同じように、レリアはまだ、眠ったままなのだろうか。
おそらくはそうなのだろう、というのが、もっとも有力な結論だった。
ただ、もしかすると――という希望が存在していのも本当だ。
いや、後者であることを強く願っているのだ。
「何をぼうっとしているんだい?」
フェリックスの声を聞いて我に返った。
茶髪の下の彼の顔は、薄く笑みを作っていた。
「あ、いえ、別に……」
胸のうちはお見通しだったのかもしれないが、怜人は咄嗟にそうごまかした。
女性好きは相変わらずなフェリックスだが、彼がレリアの話題を持ちかけることはほぼ皆無だった。
彼なりに、怜人に気を使ってくれているのは明白だった。
「さて、そろそろ日も暮れそうだし」
フェリックスは空を見上げた。怜人もつられてそうする。
遠くの空が、赤みを帯びた色彩に変化していた。
「考え込むなら、まずはゆっくりできる宿を探すとしよう」
最初のコメントを投稿しよう!