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いくら帰りを待つ者がいるとはいえ、命を落としてしまっては意味がない。グロスブルグとはそういう土地なのだ。
目的を達するのは、十分に実力をつけてからでも遅くはなかった。
そうやってゆっくりと、しかし着実に、ここまでは歩を進めている。
そして今回は、ここサラナダで滞在期間を取ることになった。
「なかなか、悪くないところだろう。これで値段も割安だ」
宿のロビーで、奥に消えた係員を待つ間、フェリックスがいった。お金の話の部分では、ひそひそ声だった。
「こんなとこ、よく見つけられましたね」
怜人は、思いのままの相槌をして振り返った。
そこそこの広さと小綺麗さのあるロビーが怜人の後ろには広がっているのだ。
その半分は、ソファーを備えた待ち合わせ場であり、天井には少しだけ豪華な室内灯もある。
「いやいや。お待たせをしました」
と、ここで、フロントの係員が戻ってきた。
おおよそホテルマンといいがたい、ちょっと頭頂部の薄くなった親父だ。見た目は五十前くらいに見える。
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