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「一ヶ月の滞在、大丈夫ですよ」
「そうか。それは助かった。宿賃はうんと安くしておいてね。なにせ、極貧旅行なものだから、最悪は宿泊が短くなるかもしれないからさ」
フェリックスが鎌をかけると、親父は体のいい愛想笑いを作った。
彼の中で、長期滞在をさせる場合と宿賃を下げる場合、どちらがより利益を生むのか天秤にかけられていることだろう。
「ささっ、では、部屋へご案内します。……おいっ」
主人が、フロントの奥のほうへ向かって呼びかけた。
するとしばらくして、雇われの者と思われる女性が姿を現した。
服装は着物――ということはこの世界では当然ありえず、いたって普通の服装だった。
彼女は愛想のよい笑顔を作った。
「部屋は二階にございます」
先導する女性を追いかけて、ふたりは階を上がった。
案内された部屋は、怜人の世界でいうところの二十畳くらいは下らない、とても広々としたものだった。
しかも床は一面絨毯だ。その端のほうに木製のベッドが二つあるため、二人用の部屋なのだろう。
「予想以上の部屋でしたね」
従業員の女性が去ってから、怜人はいった。
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