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そんな暮らしも、一年近い時間が経過して、さすがに慣れたものへと変わっていた。
しかし、何もかもが予定通りに進んでいるわけでは、断じてないのだ。
バルティアに移ってすぐ、クロードはとある組織へと加入した。
簡単にいうと、魔法に特化した戦闘集団を各地に派遣する組織である。
モンスターを討伐することがほとんどだが、稀に対人戦を行うこともある。クロードも、一度だけその対人戦を経験した。
その、たった一度の経験が、クロードの運命を大きく変えることになったのだった――。
ふとクロードは我に返った。
くちびるの端のほうから垂れそうになった、歯磨き粉を慌てて拭った。
そんな自分の行動が、あまりに滑稽に映った。
まるで、あの時のように――。
そうだ、あの時に躊躇さえしていなければ――。
クロードの気持ちは沈んだ。
歯磨きを終えて、クロードは部屋に帰った。
真ん中に置いた丸テーブルの上に、書類や筆記用具といった小物が残っている。
兄のクラフト=ドラクールへ宛てた手紙を書こうとしていたのだった。
しかしどうにも気が乗らず、すっかりとほうり出していたのだ。
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