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耳元からは背中に乗っているアニーが寝息を立てている。朝が早かったので眠たかったのだろう。
「そうだな、空を飛べる呪文はまだ危ないし、物を浮かせる呪文でも教えてやるか」
「マジで! やったぁ!」
感情を表に出しやすい年頃のジルは、元気一杯に飛び跳ねて喜びを体現している。
ちらりと顔だけ後ろに向けると、エデが只ならぬ殺気をこちらに放っている。
「……あれ? エデ、どうしたのかな……?」
震え声で尋ねると、ああん? と返された。それはもう町の不良みたいに。
「知ってる? こいつ、この間、シリル兄ちゃんが教えた透明の呪文を使って私を驚かしたのよ。それに加えて、今度は物体を浮遊させる呪文。何をしでかすか分かったもんじゃないわ」
「と仰っているがそれは誠か、ジル」
怒りを受け流すようにしてジルに振る。それを答える代りに、へへへと返される。それはもう下町の悪ガキみたいに。
「けど、今度は絶対に悪ふざけには使わないよ。約束する」
目をウルウルさせてジルは手をすり合わせる。
「はぁー。絶対悪用するなよ。したら二度と教えないからな」
「うんうん。絶対しない、約束する。神様に誓っちゃう」
「シリル兄ちゃんは甘い! そんな簡単に承諾してたら威厳なくなるよ」
そういわれても、真っ向からお願いされたら断れないよ。罰が悪くなったシリルは、静かにエデから目を反らした。
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