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前方に顔を戻すと、ちょうどそのことにようやっと気づいたアニーが、腰を抜かして地面に尻餅をついているところだった。
「くそっ! 『木剋土(もくこくど)』俺に力を貸しやがれ!」
足裏から暖かい何かが流れ込んでくるのが分かる。それに加えて、体がいつもの何倍も軽く感じる。
ふぅー、息を吐くと同時にシリルは地面を強く蹴った。周りの光景が、高速で視界を通り過ぎ、アニーとの距離が一瞬で埋まる。座っていたアニーをそのままの勢いで拾い上げると、反対の通りへと一気に駆け抜けた。
シリルは体を反転させて、足に全神経を注いでブレーキを掛ける。その際、アニーが怪我を追わないよう躯体をできうる限り丸める。四、五メートル程スリップしてようやく止まった。役目を果たし終えた魔法はすぐに発動を中止する。
周囲にいた人々はその光景にあっけからんとしていたが、シリルはそんなこと意に介さず、アニーを地面に下ろすと怪我がないかを確かめる。双眸から涙がボロボロと零れ落ちている。しかし、お構いなしシリルは一括した。
「周りも見ずに飛び出すなんてダメだろ! いつも言っているじゃないか!」
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