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「すごいよ、兄貴。あの馬をも凌ぐスピード。今度、俺にも教えてくれよ」
「ばか。そんなことよりもアニーでしょ。ケガとかない?」
「パッと見は大丈夫だと思う。ほら」
商店街から外れた狭い路地で抱っこしていたアニーを放してやる。目元が赤くなって少々腫れている。
「ほんと、大丈夫そうね」
胸を撫で下ろして、エデが一息つく。その間、そんなことよりもってなんだよ、とぶつくさ言いながら、ジルも横目でアニーを見やっていた。なんだかんだで心配しているのだろう。本当にアニーが無事でよかった。
空を仰ぐと、所々に浮かぶ雲を求めるかのようにして高く聳え立つ石造りの城に目が留まる。
あれが大国エポストワールの象徴であり、この国を仕切っている国王が暮らしている場所ーーウィリアム・ミルナード・ジュリム家の城だ。そこを四角形に似せ四つの塔が建っている。どの塔の天辺も円錐状になっており、その先には国旗が風で羽ばたいている。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
ジルが不思議そうに訊ねてきたので、シリルは安心させるために柔らかい語調で否定する。
ほんとのところは、シリルとこの国の間には何かあるのだが、それを話すのはまだジルたちには早すぎる。いや、一生知らなくていいとさえシリルは思っていた。
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