魔法の運び屋

第一話 だから『彼女』を護衛する

「……さて、そろそろ市場に出て美味しい物でも食べるか」

　気分を入れ替えるために、手をぴしゃりと打ち合せて三人に笑顔を向けた。その言葉に顔を輝かせる兄弟姉妹にシリルは、この大切な時間をずっと守り続けたいと心の底から願った。

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　多種の花が鮮やかに咲く花壇を眺めながら、ウィリアム・ミルナード・ジュリム＝リリーは不満顔で庭の端にある真っ白なベンチに腰を下ろしていた。先ほどから黒い水晶のような愛らしい瞳には怒りの炎が灯っており、自慢の一房に結われた青い髪を人差し指でいじくっている。

　向こうが透けて見えるような薄いピンク色のドレスを身にまとった彼女は、先ほどからの苛立たちをすべてメイドへと向けていた。

「お嬢様、ここにいては折角のお召し物が汚れてしまいますよ」

　そんなことはあなたに言われなくても分かっているわよ、と鋭い視線をメイドへと向ける。彼女は、三年前にリリーの前専属メイドが辞めてから入ってきた若手である。

「いいからほっといて！」

　お嬢様らしからぬ声でメイドを威嚇する。メイドもどうして彼女が怒っているのか分かっていたのでそれ以上は何も言わなかった。