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薄暗い森の中、鬱蒼と生い茂る草をかき分けて逃げる男を上空から眺める。
アルバック=シリルは何の道具も駆使することなく宙に浮いていた。
彼は、ブラウンのマントを一度大きく羽ばたかせると、一気に地上へと降下する。それに気づいた男は、その光景に顔を恐怖で歪めひたすら走り続ける。
しかし、その甲斐も虚しくあっさりと進行方向に回り込まれ行く手を塞がれる。すると足がすくんでしまった男は、ひいっ、と短い悲鳴を上げて後方へと倒れ込んだ。
「なんだよ、お前は! こっちに来るな!」
ヒステリックな声で叫びながら、手当たり次第に落ちている小石を拾っては投げつけてくる。
飛んできたそれは、マントに当ると壁にぶつかったような鈍い音を発して地面へと転がり落ちる。シリルにとってその程度では何のダメージも与えられない。
「『魔法使い』がどうして俺なんかを狙うんだよ!」
魔法使い。シリルは確かにそう皆から呼ばれている。
シリルはかぶっていたフードを脱ぐと、先ほどまで隠れて目視することができなかった顔が露になる。
幼さの残る端正な顔立ち。黒の短髪に、大国エポストワールでは珍しい碧眼で男を睨みつける。その際に、首に嵌められた黄金の首輪がきらりと月の光で光輝した。
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