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「他に何か必要なもの、聞きたいことはあるか?」
そうだな、まあしいて言うなら、
「俺がいない間、家族をよろしくお願いします」
我が家を指さす。ここには、自分の命より大切な家族が居る。
「それはいつもの事だろ。他にないのか」
不機嫌そうに鼻を鳴らす。確かに、シリルは任務につく度に常套句のようにリルに言っていた。
「ないです」
「なら、現在時刻をもって大国エポストワールを出発しろ」
いつもより随分と張った声で命令が下る。シリルは了解しましたと一礼して、ずっと沈黙状態で立ちすくんでいたリリーに言った。
「行きましょう。正直、夜の街は面倒ですから」
そう催促されて、リリーは近くにいた兵の一人に話しかけると、アニーがすっぽり二人分入りそうな巨大ザックを持ち出してきた。
「よいしょ、では参りましょうか」
ずるずるとそれを引きずりながら当たり前のように告げてくる。まさかとは思ったが……はあ、ありえない。こめかみに指を押し付けてかぶりをふった。
「リリーお嬢様、その荷物置いて行ってください」
「…………」
「いや、本気ですからね」
信じられないと目で訴えてくるがそれを軽くあしらう。相手はお嬢様だが、これだけは譲れない。
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