第二話 そうして『彼女』は……

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 そこで一息つくと、リリーが質問してくる。 「それで気になった理由って何ですか?」 「いえ、たいしたことではないのですが、『この辺りは治安もいいですし』と先ほど仰っていたので。だって、地図には安全だから、ここに宿を取るようにと印が付いているわけでして」  間違っていてはただの赤恥なので、言葉を重ねるにつれてだんだんと声が小さくなる。 「恥ずかしながら、私も先ほどルイがそれをあなたに渡すのを見て初めて知りました」  そうだったのか。果たしてそこまで徹底してするほどに、リリーおじょ……じゃなかった。リリーの傍にスパイがいるのだろうか。 「そうだったのですか。まあ、兎にも角にも一旦、今夜の宿を探しましょうか。そろそろ俺の魔力も尽きそうですし」  リリーも同じことを考えていたのか、そうですね、と直ぐに頷いてくれた。  探すと言っても、イルロンは広い町である。少し見渡せばそこら中に宿の看板が立っている。後は、この中で一番信頼できそうな場所を選ぶだけである。  夜も深まってもう深夜と言っても過言ではなかった。それでも人が外でうだうだとしているのは、町が活性化している証拠だろう。俺が住んでいる場所とはえらい違いだ。楽しそうにしているおっさんどもを見てシリルはそう思った。  やがて宿が決まると、チェックインを済まして、即座に何が入っているか分からないザックを部屋に下ろした。
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