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「そうでしたか。それならこれを有難く着用させて頂きます。それと、リリーお嬢様とはくれぐれも呼ばないように」
人差し指を唇に当てて、フレッシュな笑みを見せた。シリルは一枚の絵にでもなりそうな光景に、そうでしたね、と答えて、顔をそむけた。
「では、着替えてきますね。シリルさん」
スカートの裾つまんでうやうやしく部屋を出ていく。うむ、可愛いんだけどなあ。常識がなっていない。この先、本当に大丈夫だろうか。
****
「――さて、よく考えてみれば金がない」
「そうですね。お金がありません」
再びシリルの部屋に戻ってきたリリーと共にチェックアウトしようとして、重大な事態に気が付いた。
いつもなら一日で終わるような仕事ばかりなのでお金の心配は全くしてなかった。しかし、今回は三泊四日の任務である。どうしよう。シリルは、視線を彷徨わせてこの場の打開策を考えようとしたところある一点で動きが止まる。
無論それは、巨大ザックである。
「ダメです。そこには大切なものを沢山詰め込んでいるのです」
「そうは言いましても、お金がないのでは……」
「そ、それなら、私の極位極官を明かせば」
「それはいけません!」
余りにも突拍子もないことを言われて、シリルは思わず大声を出してしまった。しまったと思った時にはもう遅い。
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