第二話 そうして『彼女』は……

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 大きく見開かれたリリーの瞳からは、やがて大きな雫がポロリと零れ落ちる。更には、彼女の口から嗚咽までもが漏れ出す。 「……すみません……けど、そんなに怒らなくても……いいじゃないですか……」  まさかの事態であった。あの程度の怒鳴り声で圧倒されてリリーが泣き出すなんて考えてもみなかった。なにより、シリルは物思いが付いた頃から、泣いている子供を慰めたことはあるが、泣かしたことなど一度足りもありはしない。  焦ったシリルは、ポケットというポケットをまさぐってハンカチを取り出して、彼女に渡した。 「い、いや……全然怒ってないですから。泣かないで下さい」 「うう……そうですか……」  貰ったハンカチで涙をふくと、リリーは、それならと言葉を付け足した。 「このドレスを一着売ればよろしいかと」  そう言って、鞄から抱いたのはリリーが先ほど来ていたドレス。確かにこれならお釣りが帰ってくるほどに余裕で宿代を払えるが。 「いいのですか。これは大切とかでは」 「いいえ。これはこの間、バリエル伯爵から頂いたものなので。別にたいしたものでは」  いや、たいしたものだろう。大切にしないと。言い返したいところだったが、シリルたち自身、あまりこの宿でのんびりしてはいられなかったので、お言葉に甘えることにした。  結局、宿で会計代わりに適当な事情を説明して、宝石の散りばめられたドレスを渡すと、逆にお礼としてお金を頂いた。 「良かったですね。お金が貰えて」  嬉しそうにリリーが話しかけてくる。 「そうですね。これなら暫く宿には困らなさそうですね」  しかし、この重たい荷物はどうにかならないものだろうか。ドレスが一着減ったところで重量の変化は全くのゼロである。
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