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宿を出た後、街中を歩いているが、どこかシリルが住んでいたふもとの町と雰囲気が似ていた。
「シリルさん、ところで服はどこで買うのでしょうか」
やけにキラキラした目つきでシリルを見てくる。何がそんなに楽しいのだろうか。どうせ購入するのは、安物の服である。リリーが持っているような宝石の付いた服なんて買う気はないのだが。
「念のために言っておきますが、ドレスなんて買いませんからね。あと、高級なもの」
「そんなの分かっていますよ。わたしをそこまで馬鹿にしないで下さいまし」
そう言うと、小さな頬っぺたを膨らます。
「ただ、服を自分で購入するのが嬉しいだけです」
「そうだったのですか――もしかして今まで服を自分で買ったことがない?」
思いついたことをそのまま口に出す。リリーはその質問に恥ずかしそうに首肯する。
もしかしたら良いとこの家というか、王家のお嬢様は、自分で服を選ぶことが許されないのか。ありえない話ではない。
王家故に、王家にあった威厳たる服を常に着なければならない。一般市民が着ているような服では、王家のメンツは丸つぶれ。そういった意図があって、彼女が着てみたい流行の服は着られないのかもしれない。
だったら、少しでもいいところに連れて行ってあげたい。そんな風に素直にシリルは思えた。
「じゃあ、できるだけ品ぞろえの多い服屋に行きましょうか」
「は、はい!」
少しだけこの国を出るのが遅れるが、構わないだろう。
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