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そんな二人の姿を見て舌打ちをする男がいた。そして、その男の背後には数人の付き人が。
「早く国を出ればよいものを」
男の苛立ちは、周りにいる付き人にまで伝染するほどであった。誰もが男から視線をそらして、地面へと目を向ける。
「兎に角、お前らあいつらの後を追うぞ」
野太い声に「はっ!」と応答した。
歩き出した男たちは、あっという間に一般市民に溶け込んでいった。
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「これなんてどうでしょうか?」
フードの中から彼女の嬉々した顔がのぞく。こじんまりした小さな店なのに、お嬢様が喜ぶような場所ではないのに、何故か彼女は笑みをこぼしていた。それほどまで彼女には自由がなかったのだろうか。まあ、女子は服選びが好きそうだしな。
そんなことを考えながら、兄弟姉妹で服屋に来たことを思い出す。
ジルは常に興味なさそうにさっさと服を決めてしまうのだが、エデは長い。加えてアニーの服選びにまで熟考するのでさらに長い。だから、いつもシリルとジルは先に買い物を終えて、露店に売っている物を食べて待っている。
「なかなか似合っていますよ」
「じゃあ、これはどうです?」
掛けてある新たな服を手に取ると、リリーは自分の体に合わせてまた同じことを聞いてくる。
「とってもいいと思いますよ」
「そうですか。なら、次はこれ」
こっちが褒めたはずの服を元の位置に戻すと、三度違った種類の服をこちらに見せる。
「……いいんじゃないですか」
「もう、シリルさんそればっかり」
「すみません」
反論しようかと思ったが、エデにも以前に同じように言われたのを思い出した。
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