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「もっと普通の女性が着ていそうな服を選んでくださいよ」
普通の女性。別にそこに特別な意味がないと分かっていても、考えずにはいられなかった。リリーにとって普通の女性がどんな服を着ているのか本当に知っているのだろうか。つい、そんなことを思考してしまう。
それにしても、俺に普通の女性が着る服を選べとか無理難題なんだよ、とシリルは思った。あまり町に降りないシリルにとって、普通の女性なんてものは良く知らない。
さてどうしたものか、と首を傾げていると背後から嫌な気配を感じた。それは言葉では表せない、何とも言いようのないねっとり感。ゆっくりと黒い塊が、こちらに向かってくるような、追い立てられる気分。
後ろを振り向くと、そこには誰もいない。
「どうしたのですか?」
「何でもないですよ。気にしないで下さい」
一瞬、言うか否か迷ったが、不安にさせるだけなので止めておいた。ここに長居しちゃだめだな。
「今度はしっかり選びますね」
わずかな魔力が感じ取れる。やばいな、シリルは、素早く服を三着ほど手に取るとリリーに押し渡す。速攻で選考した割には、なかなか良いものを選択したつもりだ。
「その中なら、どれもいいと思いますよ。ただし、一着しか買う余裕がないですから、後はリリーが自分で試着室に入って選んでください」
リリーの背中を押すと、試着室で試しに着てもらうようにと促した。彼女は、はあ、と歯切れの悪い返事をして試着室へと素直に入ってくれる。
「そこで少し待っていて下さい。すぐに選びますので」
言い聞かせるようにシリルに言うと、カーテンを閉めた。
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