第二話 そうして『彼女』は……

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 シリルが使った魔法は、金属を水へと変える呪文であった。それの掌の上で、細い棒から球体へと形状をチェンジさせる。  水を一纏めにすると、両手で包み込めそうなくらいの大きさになる。シリルはその水球を何の躊躇いもなく前方へと向ける。男たちは、小さな悲鳴を上げ、後ろへと仰け反った。  この時点で、男たちは王女であるリリーを殺しておくべきであった。そうすれば、シリルの嵌めている首輪が彼を殺して生き残ることができただろう。 「すみません、リリーお嬢様。少し目を瞑って頂けないでしょうか?」  出来るだけ優しい声音でリリーに語り掛けるように促す。彼女は、何の躊躇もなく瞼を下ろす。 「おい、分かっているのか! こっちには人質が……」 「うるさい」  落ち着きを払った凛とした声。それと同時に水球が男たちへと、まるで吸い寄せられるかのように放たれる。かわすことも、受け止められることもなく、リリーを抑えていた男の顔に直撃する。彼女の首元に突き付けられていたナイフが宙を舞う。 「天羽々斬剣――死んでくれ」  風を切る音。目前にいたはずのシリルは姿を消し、次の瞬間には、水球をくらった男の手元からはリリーが失せていた。しかし、それでは終わらない。  誰もが息を呑んだ。 「――ぐがっ!」  声にならない声を上げて、男の首筋から血が噴き出す。
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