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「すみません。危険な状況に巻き込んでしまって」
できうる限り、シリルは優しく話しかける。しかし、彼女は何も返さなかった。ただ、体を震わせ、慄いていた。
他でもない、シリルに。
「来ないで!」
リリーを起こそうとして、拒まれ手を払われた。けど、シリルは表情を崩さない。
彼女にとってその仮面がた不気味だった。あれだけ、人を傷付けて何事もなかったかのように話しかけてくる。
「どうして、そんなに平気なの?」
どうして――それをお前が聞くのか。俺が生活に苦しんでいるのは、お前ら王家の所為なのに。
強く拳を握って、シリルはどうにか怒りの感情を抑え込む。
「お嬢様を死守せよ。それが俺に与えられた任務ですので」
それ以上何もリリーは聞かなかった。シリルが選んだ服はすべて血が付いてしまい、どれも着られるような状態ではない。
リリーは、自分で立ち上がると、シリルが選んだどの服でもない服に着替えた。動きやすそうな白の無地の服である。
置き去りにされた、自分のローブをシリルが拾い上げた。
「お嬢様、せめてこのローブだけは羽織って下さい」
彼女はそのローブを不承不承に受け取った。
「行きましょう」
店内でただ起こったことを呆然と眺めていた店主に、幾らかの金をカウンターに置いた。リリーも、一礼だけすると、シリルの後をついてくる。
「外では、お嬢様と言わないように」
シリルと会話を避けたい彼女は、最小限の言葉で注意を促す。彼自身もそれを悟っていたので、そうですねと短く切り返しそれきり会話はなかった。
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