10人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
「少し、持ちましょうか」
思いだにしないことに、リリーから話しかけてくる。
「いえ、大丈夫です。これも任務の一つなので」
「……そうですか」
しまった。会話を繋げるチャンスだったのに。後悔の念に駆られつつ、何かないかと言葉を探す。
「あ、あの――」
「そのネックレス綺麗ですね」
シリルの言葉を遮り、彼女が金色の首輪を見据えて言った。
「そうですか? これはそんなにいいものじゃないですよ」
「はい。ルイとのやり取りでそれくらいは察しています。それはどういった魔法道具なのでしょうか?」
シリルは、その質問に口を噤んでしまった。
これは、ご主人様の手を噛まないようにするための、奴隷が嵌める魔法道具とは到底言えない。
「ただの魔力を増強させる首飾りだよ。任務前はいつもこれをルイさんに貸してもらっているんだ」
無理に笑顔を作り、適当な説明をする。
「嘘です」
「え?」
「私を誰だと思っているのですか。仮にも一国を束ねる王の娘ですよ。人の目を見れば、それが真か偽くらい見分けられます」
思わず歩調を止める。というよりは、彼女の真摯な瞳に魅入られ自然と足が止まってしまった。
「分かっているのです。私が世間の事を全く知らないことくらい。先ほどの争いも致し方ないってことも」
彼女は、無我夢中で心の中の異物を吐露していた。
「けど、それでも……争い事は嫌なのです。誰かが不幸になるのが、たまらなく嫌なのです」
「争いはなくならないよ」
火種はいつも君たち貴族だ。
最初のコメントを投稿しよう!