10人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
私は、国を守りたいから大国フェーリアの王家と結婚をする。そして、彼は、家族を守りたいから自ら奴隷となっている。
差など存在しない。彼と私の信念に違いなど存在しなかった。
それを感じた瞬間、自分の愚かな発言にまたリリーは涙をこぼす。
私は、どこかで彼を見下していたのかもしれない。自分の地位を驕り、人を殺す彼を汚らわしいとさえ思考していたのかもしれない。
違う。汚らわしいのは、私だ。
彼は、ただ、家族の笑顔を守りたいだけなのだ。
そう思うと、今までリリーが会ってきた男の中で、シリルがひときわ輝いて見えた。
「どうしましたか? リリー」
また泣き出したリリーにシリルは焦ったが、今度は落ち着いてハンカチを取り出す。
「いえ、何でもありません」
それを今度は素直に受け取ると、リリーは双眸を撫でるように拭き取った。
「ありがとうございます」
綺麗に畳み直すとハンカチをシリルに返す。
先ほどまで漂っていた不穏な空気が払拭されたように、お互いに感じられた。それを合図に、リリーのお腹から可愛い音が鳴る。
シリルは、無視しようかとも一考したが、朝から何も食べていなことを思い出して、後ろの方に手を回した。確か、ザックの上の方にサンドイッチが入っていたはず。
無駄にならなくて良かった。これで荷物が少し軽くなる。シリルは、サンドイッチを取るとリリーに無言で突き出す。
最初のコメントを投稿しよう!