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その行動にリリーは、自分のお腹の音が鳴っていたのを気づかれていたのだと知り、顔を赤らめて、こちらも黙りで手に取った。
この沈黙は心地よかった。どこからか小鳥のさえずりが聞こえてくる。木々の隙間からのこぼれ日が、二人を明るく照らす。心が現れるような新鮮な感覚が、シリルの全身を包む。
それと、同時に過去の出来事が明瞭に浮かんでくる。
昔、シリルが住んでいた村も草木に囲まれていた。そこは誰もが笑顔で暮らしている小さな村。時には、争い事もあったが、それでもいつしか笑顔になっていた。
だが、その平穏はる出来事が原因で一瞬にして崩れ去る。今でも忘れることはない。こいつら王家の所為で。
別に、リリーに危害を加えるつもりなど毛頭もない。彼女が関係ないのは先刻承知である。だから、俺は、彼女を無事に大国フェーリアへと送ることをルイに誓ったのだ。
隣でサンドイッチをおいしそうに頬張っているリリーを見て、シリルは自分の頬の筋肉が弛緩しているのが自覚できた。
****
どれくらい歩いたのか見当はつかなかったが、そろそろ出発してから半分くらいの地点までには、来たのではないのだろうか。太陽の傾きから察するにお昼時は、過ぎている。
ここまで来るのに、一度、お昼休憩は取ったが、リリーの表情から察するに、再度休憩をした方がよさそうだ。シリルの背後で汗をかいている彼女の様子を見て考える。
それに、ここまで奥に来ると、金目の物を狙う盗賊たちが出てきてもおかしくない。その時に、体力が残っていなくては困る。
「ここで、一旦、休憩にしましょうか」
「そうですね。分かりました」
リリーは、顔を立てに振って、近くに転がっている丸太に腰を据える。シリルは遠慮して地面に腰を下ろした。巨大ザックはその横に置く。
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