第三話 『彼女』に俺は打ち明ける

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「リリーは、いつも城の中で何をしているのですか?」 「ずっと勉強です。で、偶にお外に出て城の外にある花壇の花を見るんです。本当にこの十八年間それの繰り返しです」 「それは、なかなかですね」  シリルは、苦笑いする。 「けど、お食事はいつも美味しいし、父上が雇っている使用人が、私の寝る前に外の世界の話をしてくれる。だから、嫌なことばかりじゃなかったわ」  嬉々としてリリーが話を続ける。 「もし、私が王女になれたあかつきには、必ずあなたたち家族に援助金を送ると誓う」  その温かい言葉に呼応するかのように、心地の良い風が二人を吹き抜ける。 「本当に外の世界を知らないのですね。そんなのダメですよ」 「え? どういうこと」  顔を見なくてもリリーが驚いていることは推測できた。 「俺だけじゃない。生活に困っているのは」  そうだ。辛いのは、俺だけではない。きっともっと辛い人が世の中には五万といる。しかし、そこでシリルの脳を三人の兄弟姉妹がよぎる。 「それでも、恩に着るというのなら、俺の家族を学校に入れてあげてほしい。直接、お金で援助する必要はないです」  シリルが背中を彼女に向けているので、お互いの表情は読み取れることができない。 「そうですか」  それっきりお互いに口を開くことはなかった。  五分ほど経ち、リリーが準備ができたと告げる。 「では、もう少しだけ歩きましょう。ルイの言った通りに行けば、もう少しで小さな村が見えてきます」 「それなら、そこでこの荷物を置いていけばよかったのでは?」 「ダメです。リリーの持ち物はどれも高価すぎます。一発でお偉いさんだと気づかれてしまう」  彼女は、それもそうですね、と頷くと村に向かって再度歩き始めた。受け取ったザックは前より比べ物にならない程軽い。なので、シリルは、肉体強化を促す魔法を自分自身に掛けるのを止める。
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