第三話 『彼女』に俺は打ち明ける

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 代わりに、リリーに掛けることにした。 「リリー、少しそばに来てください」  手招きすると、彼女の肩に手を乗せる。そして、一呼吸入れる。 「『木剋土(もくこくど)』」  集中して呪文を唱える。すると、体が軽くなるのをリリーは感じた。というより、体の底から眠っていたような力があふれ出してくる。 「すごい。これが魔法なんですね」 「これで体が幾分楽になったはずです。どうですか?」 「はい、なんだか力が湧いてきました」  幾度も掌を開いたり閉じたり、ジャンプしたりするリリー。 もしかしたら、直に魔法を体験するのは初めてなのかもしれない。彼女のあどけない姿が昔の自分と重なり、シリルは微笑ましく思った。  地図を確認しつつ、いつ舗装されたかもわからない凹凸の激しい道を進む。顔を上に上げれば、黄金色の空が徐々に黒く染められているのが分かる。どうやら、雲まで出てきたようだ。  急がないとこのペースでは夜までには間に合わないか。  一応、シリルの魔法の有効範囲は半径五十メートルである。つまり、リリーとそれ以上離れてしまうと、先刻に掛けて魔法が解けてしまう。 「もう少し、ペースを上げましょうか。このままでは、村まで間に合わないかもしれません」  振り向くと、彼女が余裕ですと言わんばかりに首肯している。  実際に、リリーの歩くペースは格段に上がっていた。さっきの疲労も何のその、三十分と少々進むと、丸太で囲まれた村が見えてくる。それの先は尖っている。無法地帯ではよくある盗賊防止用だ。
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