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「村に入る前に、魔法解きますね。体が重たくあると思いますけど、もう宿に着くので我慢してください」
「はい。魔法、ありがとうございました」
律儀だなあ、と思いつつ魔法を解いた。同時に、リリーの体が重力で地面に吸い寄せられ、態勢が低くなる。だが、それも一瞬のこと、すぐに立て戻す。
村の入り口と思しき場所には、門番である二人の村人が立っていた。
「すみません。今晩ここで宿を取りたいのですが」
シリルは、リリーを庇うようにして村人に近寄る。それに対し、しかめ面をした村人は、暫し二人を熟視する。
「おめーら、どっから来た?」
「大国エポストワールです」
「本当か? 通行許可書を見せろ」
通行許可書とは、出国及び帰国する時に貰える紙の事である。
それなら確か、とシリルはザックを下ろして中身をおっぴろげる。だがどこにもない。
そのシリルの慌てぶりにリリーの顔が真っ青になっていく。いや、まさかと頭に手を当てて記憶の糸を辿る。そして、リリーはある結論にたどり着く。
「シリルさん。私、置いて来ちゃいました」
「え……、もしかしてザックの中を整理した時ですか?」
「はい、もういらないと思って」
泣きそうな顔でリリーがそう訴える。というか、少し泣いていた。
ここからあの場所まで、どれだけ飛ばしても三十分近くかかる。その間、リリーを一人にしてしまう。流石にそれは出来ない。
「どうしても通行許可書が必要ですか?」
良い返事が返ってくることを懇願して訊ねる。
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