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「ダメだ。最近、大国ヴァルカーンに住む国民は、入れないことにしているんだ。食糧不足のあいつらは、何をするか分かったもんじゃねえ。それがお前たちだとも限らん」
じろりとナイフのような冷たい目でこちらを睨みつける。
シリルは、心の中で村人の言っていることに賛同した。確かにその通りだと。
大国エポストワールと大国ヴァルカーンが争っているのもそこにある。彼らは、生きる為の食べ物が欲しくて無法地帯に存在する村を襲い、ついには大国エポストワールに手を出して来た。
言うまでもなく、ここは法律の届かない場所。大国ヴァルカーンに住む国民にとっては、格好の餌場だ。
しかし、リリーがいる手前そう簡単に引き下がるわけにはいかない。どうにかして、入れてもらわないと。シリルは、夜空を視界にとらえつつ尚も食い下がった。
「お願いです。一晩だけでいいんです。朝には直ぐに出ていきますから」
「ダメダメ。入れる訳にはいかないよ」
くそっとシリルは地面を蹴った。何か証明できるものはないか。
シリルが苦悩で頭を抱えている時、ふいにあっとリリーが声を上げる。
「もしかしたらここに」
そう言って、彼女はシリルに近づくと、身に着けている首輪を問答無用で引っ張られる。へ? と間抜けな声を出す暇もなく、目の前にリリーの顔があった。
だが、あたふたするシリルにお構いなしで、しきりに彼女は首輪を眺めまわす。
「どうしたんですか? 首輪に何か……」
そこまで言いきけてシリルは、リリーが何をしているのか悟る。
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