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「何とか予定通りに村の中に入れましたね。それもこれもリリーのお蔭です。ありがとう」
努めて気持ちを込める。それが伝わったのか、はにかみながら返事が返ってくる。
「どういたしまして」
やはりこの人は、良い人だ。松明(たいまつ)に照らされるシリルの顔を覗きながら、リリーは顔をほころばせる。そんなことに気付かない彼は、ひたすらあたりの様子を窺っている。
町とは違った雰囲気がある。夜で歩く人は少なく、明らかにこちらを敵視している。これが、戦争の影響なのだろうか? リリーは胸が痛くなった。
もしかしたら前はもっと明るい村だったのかもしれない。それを戦争という悪魔が、人を疑心暗鬼にさせ、こんなにも冷たい目へと変えたのだ。
自分の不甲斐なさに、無意識にシリルの袖を握っていた。
「宿が見えてきましたよ」
シリルの目線の先を追うと、そこには確かに『宿屋』と掲げられた提灯が灯っている。だがそれは、宿と呼ぶには余りにも粗末すぎるようにリリーには思えた。
店の玄関扉は、和風のガラスが使われているが、奥から明かりは見えない。それに何日も掃除をしていないのか、店の前は落ち葉が溜まっている。
シリルを一瞥するが、リリーと同様に困惑した表情を浮かべている。
「なんだか、不気味ですね」
「そうですね。もしかしたら営業中止しているのかもしれません」
リリーの反応に協調しつつ、シリルは、取っ手に手を掛け横にスライドさせる。
ガラガラと音をたて、扉が開いた。どうやら、営業はしているようだ。よかった、とお互いに安堵する。
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