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それにしても中は薄暗かった。かろうじて壁に吊るされたロウソクが、廊下を映し出されていたが、誰も出てくる気配はない。こういった民泊する場所に来るのは初めてのリリーでも様子がおかしいのは察せる。
「どうしたのでしょうか? 誰も出てこないのですが?」
「もしかしたらこれも戦争の影響かも――ごめんください! 今晩泊めて欲しいんですけど!」
大きなシリルの声が、廊下に響き渡りこだまする。
すると、奥の方から白髪頭のおばあさんが顔を指す。白い花柄が描かれた紫色の着物を着付けしている。
「すみません。まさか、こんな時期に人が来ると思いませんでした」
謝罪しているのだろうが、二人にはそうは感じられなかった。どちらかというと、軽蔑や嫌悪といった類の負の念が伝わってくる。
しかし、シリルは嫌な顔一つしなかった。
「今晩泊めて欲しいんですけど。部屋、空いてませんか?」
「勿論空いてますよ。こんな時期に客なんて普通来ないですからね」
やはり棘のある言い方。ムカッとしたが、シリルは鉄壁の仮面を崩そうとしないので、リリーもそれを見習う。
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