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おばあさんが戻ってくると、記入した紙を渡す。
「これが部屋の鍵となります。奥に階段がありますんで、そこを二階まで上がって頂いて、一番奥の部屋になります。予約がなかったので、お食事は簡易なものになりますが、それでよろしかったでしょうか?」
「はい。どこの宿も同じような状況だと思いますので構いません」
「分かりました。では、ごゆるりと」
頭を下げると、また奥へと姿を消す。
「じゃあ、部屋に荷物を置きに行きましょうか」
シリルを先頭に部屋へと向かう。階段は、何年も板を張り替えていないのか、ギシギシと音を立てて、今にもそこが抜けそうだ。
二階に上がっても、廊下の暗さは健在だった。ロウソクが一定の間隔を空けて灯っているだけ。それに所々消えているのもある。
リリーは、何だか不気味に思えてまたシリルの裾を掴む。それに気づいたのか、シリルが明るく話しかけた。
「何があっても俺が守りますので、そんなに怯えないで下さい」
リリーが掴んでいた裾に手を伸ばすと、シリルが優しく手をとった。
「シリルさん……」
もしもこんな人が結婚相手なら。ふと、そんなことを考えてしまう。だが、リリーはそんな気持ちを直ぐに振り払う。
自分は、一国の王女。なんとしても国の民を守らなければならないという義務がある。一時の感情に流されてはいけない。彼女はそう言い聞かせた。
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